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12月20日(日)にF/TステーションでF/T09秋劇評コンペ優秀賞発表・講評会が行われました。
受賞者の皆様、おめでとうございます!


<優秀賞受賞作品>

柴田隆子氏 美しい静寂の地獄絵図 ―『神曲―地獄篇』 

堀切克洋氏 「本物」はどこにあるのか――『Cargo Tokyo-Yokohama』評

百田知弘氏 『あの人の世界』 劇評


追って審査員の皆様からの各作品・全体についてのご講評をアップいたします。
どうぞお楽しみに!

 舞台前方から客席の目の前までだけを長方形に切り取るように当てられた照明。その奥の暗闇から、2人のダンサーがそれぞれに現れる。2人はかすかな雑踏の音のみが聞こえる静けさの中で対峙する。時おり聞こえる、車が遠くを通りすぎていく音が、どこかの街の片隅でこのやり取りが行われている印象を与えていた。これは裏通りでくすぶる若者たちの一面なのだろうか。彼らが身につけている衣装も、Tシャツやポロシャツ、ジーンズにスニーカーといった、いかにもストリート上の若者の格好である。そんな若者の1人が喧嘩でも始めるような風体で、舞台上のダンサーの一方が他方に対して鋭く手脚を差し出すが、一方はそれをものともせず、攻撃してくる相手を視界にすら入れていないかのように、冷静に佇んでいる。そしてまた1人、暗闇からダンサーが現れる。いつのまにか新たなペアへと移り変わり、同じような対峙が始まった。より荒々しい動と、それを沈黙のうちに受け入れる静。ダンサー2人の身体の関係性がより強く見えてくる。寸止めのジャブを出し、蹴りを入れ合いながらも、ゆっくりと頭を他方の方にもたげ、時に身体を痙攣させながら、次第に2人は身を寄せあい、2人のダンサーが1つになっていく。が、次の瞬間にははじけるようにして再び相反する2つの身体になる。互いに引き付け合い、また互いに反発していくダンサーの間に働く力は磁力のようだ。流れるように静かに入れ替わったダンサー、波打つような彼らの動き。そのしんとした空間に、雑踏の音がかすかに響きつづけている。