F/Tで上演された各作品、企画についての劇評アーカイブです。
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フェスティバル/トーキョー公募プログラムの審査員として観た11作品のうち、特に劇評を書きたいと思えるものが3作品ある。
一つは『不変の価値』(構成・演出:谷 竜一)で、厳かで大きな問題をテーマとしている。商品と市場が人の価値を変えてしまうことを問いただすものだ。しかし、舞台は気楽な感じで、更にはゲームのような形式で進行する。役者が観客に「有料リクエスト」として作品を「演出させる」のだ。このように「演出の権力」を観客に委ねる方式は、「商品・市場と人の価値」という複雑な謎解きは避け、実際にはゲームを用いることで作品を答えるべき問題そのものに転化しているのである。
二つめは『ゲイ・ロメオ』(構成・振付:ダニエル・コック)で、ダンサーでもあるダニエルは、自らがベルリンなどの都市で同性愛の相手を探した経験を創作の素材にした。作品では、映像を通して各地の彼氏からのプレゼントを並べ、同時に観客に日記を読ませる手法を用いている。ラストでは、激しくも優美なポールダンスを披露する。この作品は極めて「個人的」ではあるが、舞台上でさらけ出すことこそがこの作品の特徴でもあるのだ。また、作中での言葉と表現手段は軽やかでユーモアに富んでおり、厳粛でプライベートな「個人の問題」は、まるで春の雨が土にしみ込んでいくかのようでもある。
三つめは、『狂人日記』(演出:リー・ジエンジュン)。北京で彼の過去の作品『牺牲』や『背叛』などを見てきたが、本作にも彼の一貫したスタイルが反映されており、舞台上には石やレンガが敷き詰められ、完成された舞台になっている。しかし、過去の作品との大きな違いは、魯迅の同名の小説を改編し、「人食い」精神が中国には依然として残っていると指摘している点である。気力に満ち、狂気みなぎるほどに勇ましい12人の役者が石やレンガが積み上げられた瓦礫の舞台と一体となり、今の中国は精神までもが依然として廃墟のような状態に置かれていることを隠喩した「廃墟感」を作り出した。演出家と同じ国の出身者として、中国社会の現実に対して同様の思いを抱いているため、「現実批判精神」が欠如している現代の中国演劇において、魯迅の「批判精神」を改めて作品で表現したことに敬意を表したい。