劇評

雲。家。

F/Tで上演された各作品、企画についての劇評アーカイブです。
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何故いま、此処で『雲。家。』なのか


 男/女、強者/弱者、被害者/加害者、単純な二項対立に収まらない物語を紡ぐ力を、言葉を、エルフリーデ・イェリネクは持っている。例えば3.11のような甚大な悲劇が起きたあと、被害者に肩入れし、二元論の世界を構築し、東電なら東電、政府なら政府と敵をはっきり決めた勧善懲悪の物語を語ることの方が作り手は倫理的にしやすいだろう。ただ何故か受け手は嘘くさく、寒々しく感じてしまうのだ。例えば3.11が引き起こした原発問題を考えてみれば、誰が被害者で誰が加害者かなどという線分けはもう意味をなさない。福島市民は首都圏に送電する図式の中で犠牲になったとも言えるのだ。その図式の加害者の中には、全く加害の意志のない人々の方がほとんどだろう。

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