テアトロテーク作品をディレクター相馬がプレ解説!第五弾は...
G.浜辺のアインシュタイン / ロバート・ウィルソン / マーク・オーベンハウス
ロバート・ウィルソン。1941年生まれ。なるほど彼も、アリアーヌ・ムヌーシュキンや唐十郎と同世代です。この世代には、いまだにバリバリ現役で活躍する世界的な演出家が多いですね。それだけ演劇という表現形式と、その時代の社会的必然性がマッチしていたということでしょうか。
『海辺のアインシュタイン』は、1976年、アメリカで初演された現代オペラで、今回ご覧頂く映像は、この歴史的作品を巡る1986年のドキュメンタリーです。ロバート・ウィルソンとフィリップ・グラスのインタビューと作品の抜粋で構成されており、とにかく「イメージの演劇」の源流に迫る映像です。『海辺のアインシュタイン』は、日本には1992年、当時のアートスフィアのこけら落としの一環で招聘されています。
ミニマル音楽の巨匠フィリップ・グラスが手がける音楽とのコラボレーションで生まれたこの作品には、これといった筋書きもなく、ヒーローもいません。台詞、シーン、音楽に明確な因果関係もないまま、視覚と聴覚を刺激する「イメージの演劇」が4時間半続いていきます。
ロバート・ウィルソンは映像でこう語っています。
「最初、「これは劇ではない」と言われた。筋がないからだ。ダンスでもないし、絵画でもないと言う。物語はないしナラティヴな構成ではない。アインシュタインの一生ではなく、彼を詩的に解釈する試みだ。」
「これは演劇ではない」。何か新しい表現やその形式が生まれようとするとき、それを既存の評価基準でしか捉えられない批評家から寄せられる典型的な批判です。「演劇」を拡張したとき、「これは演劇ではない」という批判を受ける。今は巨匠のロバート・ウィルソンも、このような批判を浴びていたというのは勇気付けられますね。
今では演劇の一つの潮流として進化を続ける「イメージの演劇」ですが、その源流を垣間見せてくれる貴重な映像上映です。残念ながら予算の都合で英語のみ、日本字幕はついておりませんが、音楽劇なので万が一言葉が分からずとも十分楽しめますのでご安心を!
⇒解説1弾『家族会議』
⇒解説2弾『そのヨーロッパ人をやっつけろ!』
⇒解説3弾『アリアーヌ・ムヌーシュキン:太陽劇団の冒険』
⇒解説4弾『外国人よ、出ていけ!』