【Daily dialogue】Vol.2 芸術と政治について考えたグラーツのキャンプを報告

この秋、世界中が注目した芸術と政治を巡る24時間7日間のノンストップマラソンキャンプに日本から唯一参加したパフォーミングアーツ・ジャーナリストの岩城京子さんと、韓国から参加したF/Tアジア事業コーディネーターのイ・スンヒョウさんが10月29日、東京芸術劇場・F/Tインフォメーションにて緊急報告討議を行いました。冒頭岩城さんは「単なる報告会ではなく、日本ではタブーに近い『政治と芸術の良好な関係性』についてさぐる契機になれば」と語り、キャンプの趣旨や一日の過ごし方から始まり、キャンプ参加のアーティストとアクティビストの差異を目の当たりにした経験から、アートが持つ政治的な可能性について言及し、考察を深めました。

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今回お二人が参加したキャンプは、オーストリア、シュタイヤーマルク州の州都グラーツで毎年開催されるフェスティバル「Steirischer Herbst(シュタイヤーマルクの秋)」の前哨戦として今年9月に一週間かけて行われたもの。世界的大不況で揺れる現実において、芸術は無益な代物なのか、という存在意義に関わる切迫した問いから立ち上げられたという同プログラムのタイトルは「Truth is Concrete(真実は具体的である)」。世界中から200人のアーティスト、アクティビスト、理論家のほか、岩城さん、イさんらを含む100人の奨学金獲得参加者が集まり、グラーツの合宿所に滞在して24時間行われているディスカッション、レクチャー、パフォーマンスなどのプログラムに参加し、意見を戦わせたといいます。

 

報告討議では、イさんが写真を見せながら、さまざまなアクティビスト的な発想での参加者たちの現地での発表の模様を説明。韓国のアクティビストが世界中のテレビニュースの映像に「あきれた」と書かれたTシャツを来て映り込む活動や、古今東西の政治家たちの演説をカラオケ風な画面の前で表現者が話すイギリスのスポークンカラオケといったパフォーマンスが紹介されました。



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一方、岩城さんは、アーティストとしての考察を用いる発表を主に紹介。南米コロンビアの首都ボゴタの元市長アンタナス・モックス発表した「アーティストならどうするか?」という発想で劇的に市政を変えた例や、ドイツ人演出家クリストフ・シュリンゲンジーフによる西アフリカのブルキナ・ファソに建設された「オペラ・ヴィレージ」プロジェクトに触れ、彼らの現実のモラルを軽々と超えて、新たな真実を想像力によって再組織する力こそアートの持つ可能性ではないかと語りました。


キャンプの実際の生活では、食事はほぼすべてベジタリアンで参加者から不満の声があがったというエピソードや、参加するうちにアクティビストたちは討論に飽きてしまい、街中に出て実際に活動を始めてしまったという、行った人しか分からないエピソードも披露され、参加者の関心を集めました。


お二人とも、モラルを語るアクティビストとモラルを壊すアーティストの違いが日を追うにつれ鮮明になっていったと指摘。その上で、岩城さんはキャンプ中にウェストミンスター大学の政治学者シャンタル・ムフさんが提唱したアートにアクティビズムを融合させた「アーティビズム」という概念を説明。アートによって、知らず知らずのうちに権力に絡め取られている市民の思考的癖をアートによって逸脱させ、個々人の自治を回復させるというこの活動に、アートの政治介入の可能性があるというムフさんの主張に共感を寄せました。


お二人の印象としては、今回のキャンプは意欲的な取り組みではあったが、改善点すべき点もまだまだあるという結論。岩城さんは、「合宿所での生活は、同じ共同体の人間であることを強要される感じがあり、3日目にホテルへ避難しました」といい、「ここに参加している人の理想論がどう社会に結び付くか見えなかったのが違和感だった」と話しました。イさんは、「コンゴから来たヒップホップで民主主義を広めている参加者と会った時、挨拶のあとに言葉が続かなかった。言語の問題というよりどう溝をうめていいか分からなかった」と文化的文脈の乗り越えられない違いが問題だと指摘していました。