中野成樹、長島確『四谷雑談集』+『四家の怪談』をもっと楽しむための!トークまとめ

11月13日(水)、東京芸術劇場アトリエイーストのF/Tステーションにて『四谷雑談集』+『四家の怪談』中野成樹、長島確のトークが行われました。 登壇されたのは、つくりかたファンク・バンドのメンバーとしてこの作品の制作に携わった長島 確さん(演劇)、小澤英実さん(文筆)、佐藤慎也さん(建築)。それぞれの視点から、『四谷雑談集』(よつやぞうたんしゅう)+『四家の怪談』(よつやのかいだん)の楽しみ方を紹介してくださいました。

『四谷雑談集』+『四家の怪談』はそれぞれ、参加者全員に配られる冊子、中野成樹さんと長島確さんによるトーク、
そして街なかを歩くウォークで構成されています。
『四谷雑談集』は1727年に書かれた「最も古い四谷怪談」で、鶴屋南北の『東海道四谷怪談』の元となった噂話集
(現在でいうところの週刊誌のような感覚だそう)です。ツアーは四谷怪談の舞台である四谷エリアを中心に行います。
一方で『四家の怪談』は今回の作品のために中野さん、長島さんが書き下ろした全く新しいお岩さんの物語。
物語を読んだあと、参加者が歩くのは北千住・五反野エリアです。

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そもそも、「怪談作品」はどのように楽しめば良いのでしょうか。
これについてはまず、普段からハリウッドのホラー映画などを研究しているという小澤英実さんが答えてくれました。

 小説で読む怪談話は怖くないのがいいと思うんです。1番怖くない。絶対に襲ってこない。本の中での話だぞという距離感が良い。だってテレビの中から誰かが出てくるんじゃないかという心配がないでしょう? そのぶん想像力を刺激するし、精神的には「くる」んですけどね。文章だと、例えばお岩さんのタダレた顔も、それぞれの頭の中で好きにイメージできる。そこでできていくバリエーションが、小説で読む怪談の怖さにつながると思います。
 一般的に怖い話と言えば、ホラー映画のように視覚と聴覚に頼ったものが多いです。人は、何かの気配や雰囲気を感じるとき一番「怖い」と感じると思うのですが、視覚と聴覚は、その気配をつくるのが簡単なんです。一方で、活字で気配を作るのは難しい。想像力を介さないと恐怖を感じない、そこが面白いと思います。

映画やテレビや携帯電話に映像があふれる今、文章で読む怪談は、新鮮な怖さを感じるのかもしれません。
では、本のかたちになったお話と、街歩きの関係は? 怪談話とその話が起こる場所の関係が面白いと、小澤さんは続けます。

 日本でも外国でも、怖い話の定型として、古い屋敷に取り憑いている幽霊が人々を襲う、というものがあります。怨霊のようなものは、個人よりも屋敷という場所に取り憑いていることが多いんです。『四谷雑談集』のお岩さんも、ひどい事をされた自分の家族を恨むというよりも、住んでいた家や土地に対する執着が強いと感じます。お岩さんに呪われて気が変になってしまった家族の一人は、死ぬのではなく、自分の家の垣根を壊すという行動に出ます。自分の敷地、垣根、場所への強いこだわりが、たたりに表れている感じです。そういう意味で、四谷怪談を読みながらその話があったとされる場所を巡るのは、怪談の特徴からみてもぴったりな行為だと思うんです。

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今回の作品の地図作成などに関わった建築家の佐藤慎也さんは、日本人特有の場所に対する感覚が、怪談のあり方と良く結びついていると言います。

 ヨーロッパは石造りの建物が多いので、何百年も建物が残っている場合が多く見られます。しかし日本は木造建築だったので、すぐ悪くなったり焼けたりする。神社など神聖とされる所でも、物理的な建物はそんなに重要視されず定期的に建て替えたりしますが、「◯◯の跡地」など場所の記憶は長く保たれる。日本人の感覚では建物よりも場所のほうが重要なんだと思います。
 四谷雑談集の舞台は江戸時代で、今の四谷には江戸時代のものはほとんど残っていませんが、江戸らしくない・風情のないところでも「四谷雑談集が起こった」ことの重要性は失われないと思います。

一方で長島さんは、鶴屋南北の場所の使い方にインスピレーションを得たと言います。

『東海道四谷怪談』を書いた鶴屋南北は、場所を移しかえる手つきが面白くて、『四谷雑談集』を元に書いているのに四谷を全然舞台にしていないんです。現在の豊島区雑司が谷に高田四ツ谷町と呼ばれていた地域があるんですが、おなじ「よつや」の名を持つその土地にわざと場所を設定し直して、神田川、門前仲町、深川と水辺を横断するみたいに舞台を移しかえていく。
 そういう南北の場所へのこだわりを意識しながら、僕たちもいろいろな場所を歩き回って『四家の怪談』の舞台を足立エリアに設定しました。北千住・五反野エリアは土地の持っている物語が四谷と随分違うし、何より、とても魅力的な街だと思ったからです。

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長島さんと中野さんが選び抜いた街で展開される『四家の怪談』と、お岩さんの一番古い記憶を街中に探る『四谷雑談集』。最後にそれぞれの登壇者の方にこの作品の楽しみ方を伺いました。

小澤さん 
 私にとってはこの作品で配られる本と、そのあとに続く街歩きは等価に存在しています。『四谷雑談集』の冊子に解説を書かせていただいたのですが、本を音楽アルバムのように楽しんで頂けたらという想いをこめて「ライナーノーツ」と呼ぶことにしました。
 普通の演劇より観客への負荷が高い作品だと思いますが、感受性をぐっと高めて観ていただくことで、見えてくる景色が断然変わってきます。話の中の出来事と実際の場所のあやふやな関係を楽しんでほしいです。そして作品の体験のなかで受け止めたものは、全部等価に観てほしい。ここが見所、などというわけではなく体験全体を捨てないで持ち帰っていただければと思います。

佐藤さん
 作品を観賞後、それで終わりと言わずもう2、3回街に行ってみてほしいですね。地図を持ってまわるのは最初の出会いのきっかけに過ぎません。時間や天候などで毎回変わる「演出」も特長の一つ。街という舞台美術の「照明」は、ツアー実施時間の11時と15時ではだいぶ趣が違います。  実際、『四家の怪談』にお越し頂いた皆さんにお配りする地図は空白だらけなんです。その空白部分をご自身の視点で埋めていって、是非北千住や五反野を皆さんのお気に入りの街に加えてもらえればと思います。

長島さん
 街を舞台装置だと考えると、とんでもないスケールの舞台ですよね。仕込みに何百年もかかっているし、予算規模も莫大。それでいてそれらは表現でも作品でもなく、何かを伝えようとしているわけでもない。役者もいない。(今回の作品では仕込んだ役者がいないわけではない、かもしれませんが・・!)そういう舞台へどう斬り込んでいったらいいか、を考えて作りました。皆さんそれぞれの視点から、作品を楽しんで頂ければ幸いです。




『四谷雑談集』+『四家の怪談』は11月24日(日)までの上演。
11月23日(土)が『四谷雑談集』、11月20日(水)、24日(日)が『四家の怪談』で、それぞれ11時と15時の回があります。
完売の回も出ておりますので、参加希望の方はお早めのご予約をおすすめします!当日券も若干数あるようです。
当日は暖かい格好と歩きやすい靴でお越し下さい!皆様のお越しをお待ちしております。

  • by F/Tスタッフ
  • F/T13
  • 2013年11月19日