言葉、声、体......演劇を構成する要素をひとつひとつ解剖し、再び緊密に結び合わせる。三浦基率いる地点は結成以来、さまざまな実験的手法を通じて、演劇に向き合い、拘泥し、その力の再生に挑んできた。F/T10で発表される最新作はフランスの詩人・俳優・演劇作家、アントナン・アルトーのテキストから構成されたもの。言語と生が出合い、拮抗する「残酷演劇」の提唱者として知られるアルトーの言葉を媒介にして、三浦が見出しつつある演劇のいま、そして未来への野望を聞く。
----三浦さんは08年の『チェンチ一族』、09年の『追伸―A.アルトーによるテクストから』と、継続してアルトーを取り上げています。そのきっかけはどういったものだったのでしょうか。
三浦 もともとシェイクスピアのような古典的で王道の作家ではない人、ちょっとマイナーな作家の書いたものを劇化したいという興味は持っていたんです。ちょうどそこへアルトーの専門家の宇野邦一さんが僕の作品を観て「うまくいくんじゃないか」と。彼なりのロマンと野望をもって勧めてくれたこともあり、ここまで企画が進んできました。アルトーのテキストは非常に西洋哲学的なもので、舞台に乗せる言葉としてはかなり異質。でも僕はその文体自体に関心を持っているんです。ロジックもおかしいし、何を言ってるかさっぱり分からないんだけど、これだけのことを言っているそのエネルギー、根源的な思考はなんとなく理解できてしまう。中毒性があるんです。思考のスピードが速くて、書かれた先から意味が細分化され、どんどん展開していく。優れたラップって、ものすごく速くて、スラングも入ってて意味が分からないけど全部が鮮明に聞こえてくるってことがあるでしょ。その感じを舞台でも出せれば面白いかなという気がする。
三浦 基 ● みうら・もとい
演出家 地点代表。1973年生まれ。96年青年団入団。99年より2年間文化庁派遣芸術家在外研修員としてパリに滞在。帰国後、地点の活動を本格化し、ヨン・ フォッセやデイヴィット・ハロワーなどの日本初上演を手がける。05年青年団より独立、京都へ拠点を移す。07年より<地点によるチェーホフ四大 戯曲連続上演>に取り組み、同年『桜の園』にて文化庁芸術祭新人賞を受賞。その他、利賀演出家コンクール優秀賞など受賞多数。