フェスティバル/トーキョー トーキョー発、舞台芸術の祭典
1986年のバニョレ国際振付コンクールで一躍世界に名を馳せて以来25年間、常に世界のダンスシーンを牽引し続ける勅使川原三郎。比類のない美意識とフィロソフィーで、独自の表現を追及し続ける勅使川原は、毎年国内外のフェスティバルや劇場でダンス作品を発表するだけではなく、パリ・オペラ座バレエ団やフランクフルト・バレエ、ネザーランド・ダンス・シアターⅠなど、著名なバレエ団やダンスカンパニーからも依頼され多数の作品を創作している日本で唯一の舞踊家である。さらに今年は、ヴェニスのフェニーチェ歌劇場から招かれパーセルのオペラ「ダイドーとエネアス」を演出。その研ぎ澄まされた美的感覚が絶賛され、欧米各地のオペラハウスやフェスティバルからオペラ演出の依頼が殺到している。
また勅使川原は自らのダンス作品でも美術や照明を手がけ独自の作品世界を造形しているが、今やダンスという枠を超えて、演出家、造形美術家、映像作家としても欧米で第一級の評価を得ている。
今回の最新作で、勅使川原が音と光、インスタレーションとダンスによってどんな新たな総合芸術を創造し我々を驚かせてくれるか、世界的に注目されている。
今回フェスティバル/トーキョー10で勅使川原が挑む新作は、現代音楽の作曲家リゲティのピアノ曲とオリジナルのノイズが核となる。リゲティは戦後の現代音楽を代表する作曲家のひとりで、尋常ならざるイマジネーションを喚起し研ぎ澄まされた音響美を持つ独自な作品を数多く生み出している。今回の新作で使用される「ピアノのためのエチュード」は、ピアノ音楽の限界を打ち破る作品といわれ、身体の限界を打ち破るダンスを繰り広げる勅使川原のダンサーたちが、リゲティにどのように挑むか見逃せない。
また気鋭のサウンド・アーティストとの初のコラボレーションによって、本作品のためのノイズ・サウンドを創作。一挙に異空間へ連れ去るかのようなノイズと勅使川原のダンスとの出会いが、今回のテーマである皮を剥がされ、時間や空間、重力や意味が揮発する世界をどのように描き出すか注目されるところだ。
勅使川原のダンサーは常に身体の極限に挑み続ける。勅使川原のダンス作品が世界各地のカーテンコールで絶叫の嵐を巻き起こしているのも、鍛え抜かれた圧倒的な身体から繰り広げられるダンス、そしてイマジネーションあふれる身体から発せられる繊細なリアリティが、国境を越えて観客の魂を揺さぶるからにほかならない。
勅使川原本人の極限まで研ぎ澄まされたダンスはもちろんのこと、ヨーロッパで年間最優秀ダンサー賞を受賞し、一昨年は日本ダンスフォーラム賞を獲得した佐東利穂子の変幻自在な驚くべきダンスは必見。また新国立劇場での「空気のダンス」以来ここ数年勅使川原が育成に力を注いでいるティーンエイジャーのダンサーたちが、国内外の公演を経てめざましく成長した姿にも、ぜひ注目していただきたい。