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本プログラムについて

膨張する半球とは一体・・・?

劇的な身体と日常のゆるい身体を混在させ、フランクな言葉づかいで独自の世界観をつくりだす劇作・演出家の神里雄大率いる岡崎藝術座。 昨年はF/T10公募プログラムに参加し、急速な経済発展を遂げる中国との問題をイメージしたという野心作、新作『古いクーラー』を上演。7人の出演者一人ひとりが、省エネできない「古いクーラー」として、終わってしまった自分の役割や有り余る無駄なエネルギーを言葉や身体でそれぞれ順番に物語るというダイナミックな演出と構成で、大きな反響を呼んだ。
ついにF/T主催のプログラムへの参加を果たした新作で描かれるのは、タイトル同様、不穏なもの、人間個人の力ではどうにも出来ない謎のもの、未知なものに対峙する世界だ。膨張する半球体とは一体なんなのか。怒り、哀しみ、畏れ、喜び・・・・・・。そしてここに想定されているのは地震と原発。震災後一ヵ月間、「あらゆることがぼんやりしていた」という神里が膨らませた謎の半球体のイメージを、劇場で目にしたとき観客は何を思い、思考するのか。

若手最注目の俳優陣と美術に注目

神里は、「演劇は俳優芸術である」というという考えのもと、演劇の方法論や予定調和なものに終始することなく、緊張感と臨場感を重視し、舞台上での俳優の存在を強調する演出を特長としている。今回、その俳優陣に超充実のメンバーが揃った。前田司郎、三浦大輔、岩井秀人など、新進気鋭の劇作家の初期作品から中心的な役をこなし、近年では本広克行監督「少林少女」、橋口亮輔監督「ぐるりのこと。」などスクリーンでもその強烈な存在感を放つ内田慈が『ヘアカットさん』(2009年)以来2年ぶりに参戦。そして、ロバート・アッカーマン演出の『エンジェルス・イン・アメリカ』を皮切りに、サイモン・マクバーニー演出の『春琴』、野田秀樹作品への連続出演など、国内外の演出家からその才能を嘱望される俳優・成河の神里作品初出演にも注目が集まる。神里の世界観を確実に体現する武谷公雄、高橋ちづ、鷲尾英彰の実力派が加わり、観客に強烈な印象を残すだろう。  スタッフでは、三浦基(地点)、松井周(サンプル)などを中心に、演出家との濃密な対話から空間と作品との結びつきを強烈に意識した世界を創り出すことで定評のある美術家・杉山至が初参加。体育館を劇場化したにしすがも創造舎でのクリエイションも初となる杉山が、岡崎藝術座常連のスタッフ陣と神里と共に、どのような空間を立ち上げるのかにも注目が集まる。

あらすじ

1812年、ルイジアーナ州に突如現れた半球体は、静かに膨張を続けていた。 見るものをいちいち飲み込み、だから誰も見たことあるものはいなかった。 それなのに、そのイメージが頭にこびりつき、住民は涙しひざまづいて信仰の対象とし、水を飲んだ。

演出ノート

神里雄大

6月3日早朝。迷うだけ迷って、タイトルを「レッドと黒の膨張する半球体」にした。 もうひとつの候補は、「へこき虫、場所チョイス/ため息(Reservation)」というもので、概略はこうだ。

――「屁が止まらない。街でも飛行機でも女の家でも屁が出続ける。それは後ろの世界への挑戦状だ。もしくは心残りのため息だ。すべてを宙に浮かせて、何が落ちるのか、僕は待つことにする。ブラックホールに吸い込まれる。違う世界へは続くか? 知るか。」

最初は「屁こき虫」としていて、尻込みして屁をひらがなにした。さらに、次は「へこき虫、場所チョイス」だったが、尻込みして「ため息(Reservation)」を追加した。が、やはり「へこき虫」ではどうかと思った。僕はわりと無個性な感じの服を着ている女の子が好きなのだが、そういう子は「へこき虫」では見に来てくれないのじゃないかと思った。でもよく考えるとそういう子は、新しいタイトルだからって見てくれるのかな。見てほしいなと思った。へこき虫で行こうと3時間くらい前までは思っていた。ここ1ヶ月くらい、「へこき虫」しか思いつかなかった。

そういうわけで、ぎりぎりでタイトルを変えた。あらすじも完全にでたらめを書いた。なにをやろうか、ぼんやりとしかイメージがつかないなか、なんだか気になったイメージが、赤と黒の半球体の物体だった。そして、これからが本当は本題で、でたらめをやらないといけない気がしている。僕のイメージもでたらめに蠢いている。言及せざるを得ないのは(消極的な意味ではなく)、地震と原発。いまの僕はショックと怠け癖のせいで、無機質な、でもなにかへの怒りでぶるぶる震えている物体を思い描いている。やりたいのは怒りかもしれない。だけどそれを限定してしまうのはおかしいと自分に自分が思う。「かもしれない」だけだ。自分への保留――"Reservation"は予約ではなく、保留の意味でつけた。

about artist この作品のアーティストについて

神里雄大
演出家・作家/岡崎藝術座主宰・鰰[hatahata]主宰

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