フェスティバル/トーキョー トーキョー発、舞台芸術の祭典
ダンスという表現ジャンルに政治的かつ批評的な眼差しを投げかけ続けるダンス界の革命家、ジェローム・ベル。その代表作にして歴史的傑作『ザ・ショー・マスト・ゴー・オン』の日本バージョンを、彩の国さいたま芸術劇場との共同主催で製作する。
日本でのベルの作品上演は、2000年京都、横浜(神奈川国際芸術フェスティバル)での『シャートロジー』、2005年横浜トリエンナーレでのピチェ・クランチェンとのコラボレーション作品『ピチェ・クランチェンと私』のほか、2010年彩の国さいたま芸術劇場でのアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルとの共同創作『 3Abschied ドライアップシート(3つの別れ)』などが記憶に新しい。そして今回、満を持して、ベル個人の代表作であり最高傑作と評される本作の日本版が上演される。世界中に衝撃を与えた本作は、01年にパリ市立劇場で初演されて以来、世界50都市以上でツアーを重ね、リヨン・オペラ座バレエ団のレパートリーにもなっており、05年にはベッシー賞(ニューヨーク・ダンス・アンド・パフォーマンス・アワード)も受賞した。
彼の作品の中でも最も"悪名高い"ともいわれるこの『ザ・ショー・マスト・ゴー・オン』は、鑑賞者たちに混乱、衝撃、希望を与えるとともに多くの議論を生んできた。 ベルが選んだ、世界中の人が知っている80年代以降のポップソングを舞台正面に構えるDJがプレイしてゆく。冒頭、「Tonight」が流れるとともに場内は暗転。続いて「Let the Sunshine in」が流れ出すと、ステージに照明が灯る。ビートルズ、デヴィッド・ボウイ、クイーンの楽曲や、ブロードウェイ・ミュージカルの名曲に合わせてパフォーマーが踊りだすと、世界中の観客は時に笑い、共に踊る。
本作品において、観客が舞踊作品に期待する"振付"はもはや存在しない。舞台上で行われるこの楽しくも反スペクタクルなパフォーマンスは、ポップソングに表象される資本主義が生産し流通させる記号、画一化された身体や行動に対するベル自身のアンチテーゼの表れでもあり、また観客へのアイロニカルで真摯な問いかけにほかならない。この体験をした者なら誰でも、自らのダンス、舞台鑑賞、そして日常的に接する身体とその在り方に対する既成概念を見つめなおさずにはいられないだろう。
今回の日本バージョン制作にあたり、出演者を公募で募集。予定された出演者数を大幅に上回る239名の応募者の中から、「出演者の構成は、上演する都市や地域社会の多様性を反映させたい」という演出の意向に沿って、最終的に26名のパフォーマーが選抜された。男性13人、女性13人、年齢は17歳から67歳まで、職業はダンサー、俳優、主婦やフリーターなどさまざまなバックグラウンド、ルックスをもつパフォーマーが集合。 世界各国で様々な人々がパフォーマンスし、議論を巻き起こしてきた本作品が、今現在の日本で、どう展開され受け入れられてゆくのか。その現場に遭遇しない手はない!
DJがプレイするのはいずれも世界的なヒットソングであり、誰もが口ずさんだり、踊ったり、記憶を遡ってしまうような曲ばかり。公演の中では以下の楽曲などが使用される。
□ デヴィット・ボウイ「Let's Dance」
□ リール・2・リアル「I Like to Move it」
□ ロバータ・フラック「Killing Me Softly With His Song」 等