パブリック・ドメイン

プロフィール

ロジェ・ベルナット 演出家

1968年、スペイン、カタロニア生まれ。大学で建築を勉強した後、25歳で演劇の世界を発見し、バルセロナの演劇大学で演出及びドラマトゥルギーを学び始める。卒業した直後、Tomas Aragayと共に劇団General Electricaを創立し、自ら演出を手掛ける。General Electricaでは2001年までの間に多くの作品を発表し、ヨーロッパ各地で注目を集める。そのころは、特定の社会集団(タクシー運転手、英雄、性転換者等)を題材とした舞台作品が中心だった。
60年代にギー・ドゥボールが率いた「アンテルナシオナル・シチュアシオニスト」にインスパイアされ、演劇と社会の新しい関係を探り続けている。特に最近の作品では、劇場を出て街の中で展開される形をとっており、意外な出来事との出合いを目指している。スペインにおける演劇シーンのリーダーの一人である。

ロジェ・ベルナットへのインタビュー

クンステン・フェスティバル・デザール (ブリュッセル) 聞き手: Barbara van Lindt

Q: 過去作品では特定の社会集団(例えばタクシー運転手や性転換者等)を舞台で扱うプロジェクトを多く実現してきたと思いますが、今回の『パブリック・ドメイン』は観客をテーマとし、観客が参加する作品でもあります。「観客」という集団のどこに興味を持ったのでしょうか。

B: 最初は「ヒーロー」を舞台で扱うことにしました。俳優学校を卒業した役者ではなく、伝えるべきことを持っているからこそ台本が必要ない、という人々を選びました。("10,000kg"、 "Confort Domestic", "Flors"...)。 それらの作品を通じて様々な賞を受賞し、スペイン国内で注目されはじめました。その後、特に伝えるべきことを持っている人よりも、「異なる背景」を持った人々をテーマにしたいと思い始めました。そこで、インドやパキスタンからの移民(例えばタクシー運転手や少年少女)を扱う作品に着手し、そうした作品が国際的評価に繋がりました。
しかし、2年ほど前から、オーディションやキャスティングを一切止めました。自らの作品の出演者は公演に来てくれる観客にしようと決めたからです。そういう形で作った最初の作品が『パブリック・ドメイン』です。公演に合わせて様々な分野のスペシャリストの手により、参加型プロジェクトについての本(「Querido Publico. El espectador ante la participacion: usuarios, jugadores, prosumers y fans」)を出版しました。
出演者のアイデンティティについて、私はあまり興味を持っていません。むしろ、興味があるのは、他者と共に演劇的な状況を作り出す手段の方です。戯曲を書くことは役者に作品を作り上げるための手段を提供することだと言えます。そのような手段を問い直すことが私の仕事ですが、それは必ずしも文学的であるべきだとは思っていません。例えば、偶然に場を作ることや、様々な種類の人々が参加する等、可能性は色々あります。

Q: 『パブリック・ドメイン』においては、もはや役者と観客の違いは全くなくなっています。また、公演は、(劇場ではなく)野外の公共広場において行われますが、演劇の引用が多く含まれています。あなたは、演劇とどのような関係であることを目指しているのでしょうか。
また、観客とは何を共有したいのでしょうか。

B: 伝統的に、演劇というのはみんなが集まって、公的な場を作り出すものだったと思っています。但し、テレビによって支配された現代社会では演劇が社会的コミュニケーションの中心となっているとは思えません。そういう意味では、『パブリック・ドメイン』は古来からの作風であると考えられます。それは人々が芸術的な体験を得るために劇場に足を運び、そしてその体験が政治的及び社会的なイベントの一部であった時代のことです。

Q: 『パブリック・ドメイン』は、極めて個人主義へ偏重する社会に意見しているのでしょうか。

B: 稽古の間、我々の目標の一つは個人的なことについて言及しすぎず、個別化するような質問をなるべく避けて、むしろ少数の人達にあてはまるような質問をすることでした。我々が抱く最大の恐怖は、「無個性」です。 今の世界は、全く同じような人々が、お互いは全く違う人間だと思いこんでいる、という大きな矛盾に基づいているのです。 しかし、実際、我々が考えているほど、異なってはいないのです。そのような意味で本格化してきた「多様性の欠如」は、我々が早急に向き合わないといけない、主要テーマの一つだと考えています。

Q: 『パブリック・ドメイン』はバルセロナにおいて製作された作品であり、質問の多くはバルセロナの地理や歴史、市民の記憶に関するものです。今回のブリュッセルの公演で、このプロジェクトが初めて他の文脈に「翻訳」されています。そのアダプテーション、あるいは翻訳のプロセスで特に気になったことはありますか。』

B: この公演は人と同様に、悉く地域に関係するものです。それにも関わらず、訳すのは非常に簡単です。質問の答えに戻りますが、バルゼロナ、ムルシア、ザグレブ、ブリュッセルの町、そしてその町のお客さんたちの生活は恐ろしい程、似通っているのです。