日常の風景をひっくり返す!?『F/Tモブ・スペシャル』近藤良平、ワークショップ潜入レポート

テキスト:CINRA.NET編集部

YMOの名曲”ライディーン”が池袋の街中で鳴り響いたとき、何かが起こる!?



突然、大音量で池袋の街中に響き渡るYMOの名曲“ライディーン”。すると、それまでただの通行人だったはずの100人が、曲に合わせて一斉に踊り出し、街中が劇場に変わる……そんな様子を思い描きながら、悪戯っぽい笑みを浮かべているのが、ダンスカンパニー・コンドルズ主宰の近藤良平だ。

昨年より『フェスティバル/トーキョー』では、街中で突然大勢の人々がパフォーマンスを行なう「フラッシュモブ」を『F/T』流にアレンジした『F/Tモブ』というプログラムを行なっている。昨年は、井手茂太、小野寺修二、KENTARO!!、白神ももこ、ジェローム・ベルら、コンテンポラリーダンス界を代表する振付家による「フラッシュモブ」が、池袋西口公園や東京芸術劇場アトリウムを舞台に繰り広げられた。

そして今年、そんな『F/Tモブ』が『F/Tモブ・スペシャル』と名前をあらためて再登場。前述の近藤良平をはじめ、Nibrollの矢内原美邦、プロジェクト大山の古家優里、そして、音楽界からは□□□(クチロロ)の三浦康嗣が参加して、フラッシュモブに新たな可能性を提示する。会場も、今年はサンシャインシティや池袋駅構内といった、池袋の各所に場所を拡大。昨年は180名だった参加者も、今年は400人と倍増している。

現在、11月9日(土)の『F/T13オープニング・イベント』にて初披露される、この『F/Tモブ・スペシャル』に向けて、各振付家別のチームに分かれたワークショップが開催中。いったい、どんな練習が行われているのか? 近藤良平の現場を覗いてみた。

「もし観てる人たちも踊り出してくれたら、まだまだ東京も捨てたもんじゃないなと思う(笑)」


この日、近藤チーム2回目の練習会に集まったのは120人あまり。10代〜60代まで、老若男女バラエティに富んだ参加者たちが集っている。そんな彼らに与えられたのは、近藤らしくダイナミックでユーモラスな振り付け。「宮尾すすむみたいに!」「4000年の歴史っぽく!」と、近藤の独特な指示を受ける参加者たちの笑顔を見ていると、まるで、全身から「楽しさ」が溢れでているようだ。

近藤:とにかくみんなエネルギーが余っていて、やる気があり過ぎる!(笑) 「楽しみたい!」というモチベーションがとても高いですね。振付を提示すればすぐに自分の動きにしてくれるし、みんな休みなくずっと練習しています。

と、普段全国各地でさまざまなワークショップを行っている近藤すらも目を丸くするその熱意。だが、実は参加者の中には、「F/Tって何?」という人も少なくない。「フェスティバル/トーキョー」「コンドルズ」「フラッシュモブ」……そんなことは脇に置いといて、とにかく「踊りたい」というピュアな情熱に突き動かされているようだ。

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クラシックバレエをやっているという参加者は、昨年の小野寺修二のモブに続き、今回が2回目の参加。「いつも踊っているダンスとは違った感覚。街中で突然踊りだした瞬間、日常が非日常に変わるような微妙な空気感が面白いんです。昨年味わって、またやってみたいと思いました」と、動機を語る。また、別の参加者は、「これまでダンスの経験はないんです。還暦過ぎての新たなチャレンジです!」と、活き活きとした様子で語り、体力的にもハードそうな振付を踊りまくっている。年齢や、ダンス経験の有無に関わらず誰もが平等に楽しめるフラッシュモブ。もしかしたら、そこに渦巻くエネルギーとテンションは、どんなプロが生み出す舞台作品よりも高いかもしれない。

近藤:今回の振付では、「一糸乱れぬ」という要素はあまり重要だとは考えていません。それよりも、踊ったり見ているうちに本人たちがじわじわと楽しくなっていくことを狙っています。そして日常の瞬間が少しだけずれるような、そんな時間を生み出したいですね。

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思えば『フェスティバル/トーキョー』は、2009年の開催当初から、舞台芸術を巡る「制度」に対して戦いを挑んできた。劇場で上演されること、ストーリーがあること、演技をすること、これまで当たり前と思われてきた「枠組み」を疑うことによって、幾多のスリリングな表現が生み出されてきた。『F/Tモブ・スペシャル』から見えてくるのは、「日常」という制度への挑戦かもしれない。

近藤:今回のフラッシュモブの振付は、偶然居合わせた観る側の人たちも「踊りたくなったらいつでも踊れる」っていう、とてもゆるい枠組みにしてあります。ただ、もしも本当にそうなってくれたら、東京もまだまだ捨てたもんじゃないなと思う。けど、「何この人たち……」みたいな引いた空気になってしまったら……東京を捨てたほうがいいかもしれませんね(笑)。

「ダンス」と聞けば、劇場で踊られるバレエやジャズダンスなどを思い浮かべてしまう。だが、劇場だけでなく、盆踊りやクラブ、テレビゲームの『Dance Dance Revolution』など、日本中の至るところでダンスは踊られている。バレエが生み出されるよりも何万年も昔から、人間はダンスを踊ってきた。ある意味人間にとって、もっとも根源的な芸術がダンスであるといえるのだ。

人間の「踊りたい」という根源的な欲求を、池袋の街中でさらけ出す『F/Tモブ・スペシャル』。400人の情熱は、何の変哲もない池袋の街を鮮やかな祝祭空間に変えてしまうだろう。

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