池袋をテーマに描いたのは、蔦の葉が絡まったフェンス、エアコンの室外機、野良猫など「どこにでもありふれた」都市の風景
2009年から、毎年池袋の街を舞台として開催されてきた『フェスティバル/トーキョー』。池袋駅西口の東京芸術劇場や、東口のシアターグリーン、東池袋のあうるすぽっとなどで、国内外から集まった数々の先鋭的な舞台作品を上演するだけでなく、池袋西口公園に『F/Tステーション』というインフォメーションセンターを設置したり、フラッシュモブイベント『F/Tモブ』では池袋の街中に飛び出したりと、フェスティバルが都市空間と融け合うような、さまざまなイベントが行われてきた。
そんな「池袋」と『F/T』のつながりを生み出すもう1つの仕掛けが『F/Tフラッグプロジェクト』。今年は、10月下旬からフェスティバル終了までのおよそ1か月半にわたって、近藤良平、古家優里、三浦康嗣(クチロロ)、矢内原美邦といった『F/Tモブ』に参加するアーティストたちと、『F/T』のメインビジュアルを描いた計5種類のフラッグが池袋の街中を彩っている。
このイラストを手がけているのが、新進気鋭のイラストレーター・岡村優太だ。京都の伏見にアトリエを構える岡村は、池袋に滞在しながら『F/T』のメインビジュアルやフラッグに使用されるイラストを制作。だが「池袋」をテーマに岡村が描いたのは、サンシャイン60や繁華街などの「池袋らしい」ランドマークではなく、蔦の葉が絡まったフェンス、エアコンの室外機、人の顔、野良猫など「どこにでもありふれた」都市の風景だった。
岡村:池袋に足を運んだのは中学生のとき以来でした。カメラを持ちながら気になったものを撮影し、その写真をイラストに起こしたのですが、池袋は人の種類の多さが印象的でしたね。また、エアコンの室外機とか工事用のカラーコーン、街にいる野良猫、そういうものが何故か目につきました。
岡村は、昼間、夜、明け方など、時間を変えては池袋を歩き回り、しさいに街を観察した。そうして、メインビジュアルの中心として採用されたのは、意外にも植物のイラストだった。
『F/T13』メインビジュアル
岡村:池袋の街を歩いていて、自然の多さに驚きました。池袋には鉢などに植えられたような人工的な自然が多く、それが都会的だなと思ったんです。メインビジュアルの植物はロサ会館の裏側の道で見つけたもの。歩道と車道を分けるフェンスに植物が絡みついているのが池袋っぽいですよね。
野良猫やハトなど、岡村が描いたものは、都市に生きる自然物が多い。普段、池袋に足を運ぶ人でも、そんなものがあったことすら気づかないものばかりだ。
岡村:訪れる時間によっても、池袋の街はさまざまな顔を見せてくれました。昼間に行列ができている場所も、夜中には野良猫とホームレスのたまり場になっていたりします。今回、30枚くらいのイラストを描きましたが、池袋という街にはまだいろいろなキャラクターが秘められていそうで、とても描きがいのある街だと思います。
また、フラッグのためだけに描かれた『F/Tモブ』の振付家たちの姿も、岡村らしいユニークなイラストに仕上がっている。普段、パフォーミングアートにあまり馴染みのない岡村にとって、パフォーマーを描くのは初めての経験だったそうだ。
岡村:今回、アーティストの方、猫、植物など、いろいろなものを描いたので、自分の幅が広がったように思います。振付家の中でも、いちばん僕が気に入ってるのは近藤良平さんのイラスト。表情が出ていてインパクトがありますね。
普段から、さまざまな街に滞在してイラストを制作しているという岡村。一風変わっているようで、どこかユーモラスな視線を投げかける彼のイラストと、老若男女、国籍も人種も違う人々が入り乱れる池袋はピッタリな街かもしれない。
岡村:今回描いたイラストは、全て池袋の街に実際で目にしたものです。だから、街を歩き回りながら、元になった景色を見つけてもらえれば嬉しいですね。『F/T』のチラシ表面に描かれているのは、具体的なモデルがいるので見つけられるかもしれません。
池袋駅は、1日の乗降客数が270万人という世界でも有数の巨大ターミナル駅。フェスティバルの開催期間中だけでも、岡村のイラストは延べ数千万人の人々の眼にさらされることになるだろう。風になびく若緑色のフラッグが、数千万人が行き交う池袋と『フェスティバル/トーキョー』を結びつけていく。