都市に突然現れたインドネシア シアタースタジオ・インドネシアが乗り越える「2つの悲劇」

テキスト:CINRA.NET編集部

『フェスティバル/トーキョー』(以下『F/T』)で上演される演目は、主催プログラムと公募プログラムに分かれている。主催プログラムが『F/T』事務局より招聘、制作している公演である一方、公募プログラムは、アジア、中近東、ヨーロッパなど、世界中の若手カンパニーから作品を公募、選出している公演。毎年100あまりの応募の中からおよそ10団体を選出。さらに、その中から1組に、公募プログラム最優秀作品を決める「F/Tアワード」が授与されている。

そして昨年の『F/T12』で、見事「F/Tアワード」に輝いた団体がインドネシアのカンパニー「シアタースタジオ・インドネシア」だ。池袋西口公園で行われた屋外公演『バラバラな生体のバイオナレーション! ~エマージェンシー』は、池袋の街に突如として竹を使った巨大オブジェを生み出すというスペクタクルな作品。さらに、ロシア構成主義を匂わせる様式美や、インドネシアの伝統に根ざした土着的なパフォーマンスなどが高く評価され、『F/T13』に主催プログラムとしての出場権を獲得した。

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F/T12公募プログラム『バラバラな生体のバイオナレーション! ~エマージェンシー』シアタースタジオ・インドネシア

今回、シアタースタジオ・インドネシアが挑むのは『オーバードーズ:サイコ・カタストロフィー』と名付けられた新作。インドネシアで竹と共に生活する部族と寝食を共にしながら8か月のリハーサル期間を重ね、練り上げられていった作品だ。当初から「災害を描く」「竹で劇場を組み立てるようだ」「船がモチーフとなるらしい」など、さまざまな噂が飛び交い、期待が高まっていった。

だが、『F/T13』開幕の3週間前、突如として『F/T』事務局があるアナウンスを発表した。

「『フェスティバル/トーキョー13』主催プログラム『オーバードーズ:サイコ・カタストロフィー』の演出家であるナンダン・アラデア氏が、10月12日(土)脳動脈瘤破裂により42歳で急逝されました。謹んでここに哀悼の意を表します」

演出家を失ったカンパニーは、公演続行の可否を迫られた。彼らの出した結論は、その意志を受け継ぎ、上演を決行することだった。

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『オーバードーズ:サイコ・カタストロフィー』設置風景 (c) Ryosuke Kikuchi

そして11月に入ると、インドネシアからなんと1,000本の竹が輸入され、池袋西口公園には竹を組み上げた仮設の劇場が設置された。その異様なまでの存在感は、大都会・池袋を歩く人々をぐっと惹きつける。そして『F/T13』の開幕日である11月9日、演出家を喪ったカンパニーの舞台は開幕した。

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『オーバードーズ:サイコ・カタストロフィー』 (c) Ryosuke Kikuchi

家のようにも、櫓のようにも見える舞台を、力強く軽やかによじ登ったり降りたりする俳優たち。その姿はアクターとしてだけでなく、曲芸師のようにも、動物の姿のようにも見えてくる。吠え、叫び、歌うパフォーマンスは、既成の「演劇」概念をやすやすと越えて満員の観客たちを圧倒。宙吊りにされた1本の丸太は、ときにインドネシアに先住民を渡らせた丸木舟のようにも、荒れ狂う獣のようにも、祈りを捧げる神体のようにも見えてくる。移り変わるメタファーの連鎖から、観客はそこに潜む意味を探っていく。

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(c) Ryosuke Kikuchi

今作のモチーフとなったのは1883年に発生したインドネシア・クラカタウ山の大噴火。36,000人以上の死者を出し、インドネシア国内のみならず、地球上のあらゆる地域の気候にまで影響したという大災害だ。この作品が、東日本大震災後の日本で世界初演されたことは、決して偶然の産物ではない。ナンダンをはじめとする、シアタースタジオ・インドネシアは、自国の歴史を通じて、災害と、それを乗り越える人々の強さを描き出しているのだ。メンバーのセノ・ジョコ・スヨノは、ナンダンの意志をこう語る。

「ナンダンは大きな災害に遭遇したときに、人々の身体が災害に対してどのように向き合い、乗り越えていけるのかを作品としました。竹で組まれた三角形の舞台装置は火山でもあり、下に据えられたプールは海のメタファーでもあります。海と山の間を素早く動き回るアクターは、どのようにしてカオス的な状況を乗り越えられるのかを表現しています。ナンダンは、私たちの公演を通じて日本の観客たちに、『かつて経験した災害を追体験してほしい』『自分たちを見つめなおすきっかけにしてほしい』と語っていました」

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(c) Ryosuke Kikuchi

1,000本の竹で組まれた特設劇場の内側にしつらえた観客席のみならず、外側からもチケットを持たない観客たちが、少しでもそのパフォーマンスを覗きこもうと固唾を飲んで見守っていた。上演時間はおよそ60分。劇場の中で、あるいは劇場の外で、彼らのパフォーマンスを体験することは、震災を経験した私たちにとって、そして演出家を喪った劇団にとって、またとない時間となるだろう。

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